世界的デザイナー
TOMO KOIZUMI
学生に熱いアドバイス!
ガリアーノから教わったのは「NOと言える強さ」
9月18日(水)学生向けスペシャルトークショーオフィシャルレポート
世界的ファッションデザイナー、ジョン・ガリアーノのドキュメンタリー映画『ジョン・ガリアーノ
世界一愚かな天才デザイナー』が9月20日(金)より全国公開される。
本作の公開を記念し、9月18日(水)にシブヤ・ユーロライブにて学生向け特別試写会&トークショーを開催。
ガリアーノ本人とコラボレーション企画を行った世界的ファッションブランドTOMO KOIZUMIのデザイナー小泉智貴と、MCとして元「VOGUE
JAPAN」誌編集長でファッションジャーナリストの渡辺三津子が登壇。ガリアーノと会った際の貴重なエピソードを交えつつ、ファッション業界での活躍を目指す若者に向けて力強いアドバイスを送った。
これまで本作を3回ほど観たという小泉は、「自分はジョン・ガリアーノのファンなので、これまで知っていたこともありましたが、知らなかった事実もあって。驚きもありましたし、事件の裏にはそういうことがあったのかということを知ることができて。理解がより深まって良かったなと思いました」という。また「映画を観て印象は変わった?」という問いかけに、「やはりアルコール依存症の問題や、当時の業界の問題ですね。今は改善されているのかもしれませんが、ひとりのクリエーターにものすごいプレッシャーを与えて、ノーと言えない状況がつくられていたんだなと。当時の熱狂の中での苦しさというものを感じられて。ちょっと心苦しくなりました。ただそれでもつくることが好きで。つくることを止めないというガリアーノの思いを知ることができて、自分も心強いなと思いました」と語った。
一方、反ユダヤ主義的暴言で逮捕されたガリアーノが、ディオールのデザイナーを解雇されたのは2011年のこと。VOGUE編集長だった渡辺三津子も当時のことを「事件が2月で、3月のパリコレの直前でした。だからわたしたちもビックリして。ショーはどうなるのかと思っていたんですが、ショー自体はすでに出来上がっている状態だったのでそのまま行われました。ですが当然、ガリアーノは登場せず。(ディオールのトップだった)シドニー・トレダノさんが最後に出てきて。皆さんにその説明と、ディオールとしてどう考えているのかとお話ししていました。そういう特別な感じがありましたね」と振り返った。
一時はどん底にまで落ちたガリアーノだったが、周囲の人たちの助けもあって、2014年からはメゾン・マルジェラのクリエイティブ・ディレクターに就任している。そのことについて小泉も「もちろん使命を持っているから、ぶれずにファッションの中心に戻ってきたのかと思いますが、それと同時にビジネスの才能もある、ということにも気付かされました。ディオールをあれだけ盛り上げて。一度は問題を起こしたものの、今は反省してまた前線に戻ってきた。今はマルジェラもものすごく好調ですからね。今は以前ほどは前に出ないけど、職人的にものをつくり続けているということに励まされるところはありますね」と語った。
その言葉に渡辺も「ディオールの全盛期の時は、ガリアーノ自身がものすごく前に出てきて。奇抜な衣装ということもあり、ショーと同じくらい本人が目立っていました。そしてそれを業界の人も楽しみにしていたところがあって。今回はショーの終わりでガリアーノがどんな格好で来るんだろうと期待していた。でも今は違いますよね」と続けた。
当初、ガリアーノがメゾン・マルジェラのデザイナーを務めるということに賛否両論の声もあったというが、それでも自分のスタイルを取り入れながら、成功へと導いたことに、「本当にファッションを知り尽くしているし、勉強する好奇心があって、大変なパッションを持っている人なんだなと思いました」と指摘した渡辺に対して、小泉も「ディオールでやってきたこととは全然違うんですけど、ガリアーノが持つバックグランドと、ブランドのアイデンティティーを組み合わせて、新しいものをつくるというのは、デザイナーを目指す人たちにはものすごく勉強になるんじゃないかなと思います」と会場に呼びかけた。
また、小泉にとってガリアーノは、自分自身をファッションの世界に導いた存在だったという。「中学二年の時に、本屋さんで立ち読みしていた雑誌に載っていた、ディオールのオートクチュールの写真を見て、この世界に関わりたいな、入っていきたいなと思ったのがきっかけです。ただそこから(ガリアーノと)つながるのは難しいなとは思っていたのですが、結果的には本人に会えたり、一緒に仕事できたので。そういう意味ではうまくできたのかなと思います」と感慨深げに当時の思い出を語った。
だが実はガリアーノは早い段階から小泉に注目していたという。「去年のはじめくらいに、パリで実際にお会いする機会がありました。2016年につくったドレスをレディー・ガガが着ていたということがあったんですが、その時から知ってくれていたと聞いて。自分のことを知ってもらえたのは(2019年の)ニューヨークのショーからなのかなと思っていたんですが、それより前から知ってくださっていたというのはかなり驚きで、うれしかったです」と振り返った。
ガリアーノと小泉は2021年のVOGUEの企画で、デザイナー同士が互いのドレスを交換し合い、それをアップサイクル作品として再利用するという企画でコラボレーションを行っている。そのコラボレーションについて小泉は、「2021年はコロナがひどい時で。その時はまだ実際に会うことができなかったんですが、オンラインですべてを進めました。それぞれのドレスが届いて、それをどうカスタムしていくかということをやったんです。実際にまだそのドレスは手元にあるんですが、自分がカスタムしたのは、メットガラでリアーナが着たメゾン マルジェラのトワル(試作)でした」と明かした。
トークの終盤では、会場に集まったファッションを学ぶ学生たちから小泉に対して熱い質問が投げかけられた。「ガリアーノの実際に会った印象は?」という質問に対し、「映画にも出てきたガリアーノのパートナーであるアレクシスとも一緒に1時間、アフタヌーンティーしたんですが、その時に一つアドバイスがあれば、みたいな話をした時に、何かいろいろあってからの答えだったと思いますが、何かをお願いされた時にノーと言うことは、それは自分が弱いからノーと言うのではなくて、自分が強いからノーと言うことができるんだと。だからノーと言うことにためらうことはないんだよ、と言ってもらって。それは身に染みたなと感じたことがありました」と述懐。
またファッションをデザインしていくうえで「自分らしさ」をどう出していけばいいのか、という悩みには、「自分らしさって難しいですよね。自分は今でこそ少しはスタイルができてきていますが、新しいものをつくる時は自分らしさに迷うことがあります」と切り出しつつも、「自分らしさって量が質を超えていくという部分もあって。自分も20代の時はいろいろと試行錯誤をしてきました。サンプルをたくさんつくっては友だちに見せたりして。そこで『これすごいね』『もっとたくさんつくってみたら』『これはTOMOらしいよね』『これはもっと大きなコレクションにしたらいいんじゃない』とか。いろいろと言ってもらって。それで気付くことがありました。確かにいろんな人がいろんなことを言ってくると思うので、難しいなとは思いますが。それでもたくさんつくって、たくさん見せるということが大事だと思います」とアドバイス。
また「アイデアが行き詰まったらどうしますか?」という悩みには、「行き詰まったら散歩をしますが、図書館でファッションのアーカイブを調べて、ファッションの流れを勉強するのもいいと思います」と返答した小泉。映画でもガリアーノ自身の下積み時代が描かれ、模索する姿が描かれていたが、「誰にでも下積みやステップというのがあって。最初からこう(いうトップ)ではなかったんだということを知る良いきっかけになると思います。そしてガリアーノ自身がものすごくファッション史オタクだと思うので。バイアスカットの話とか、ロココからのインスピレーションとか、過去の歴史的なファッション、服飾史を引用していると思うので。だから服飾史を勉強して、自分ならどういう引用ができるかなとか。そういう遊び心のある感じでデザインもできると思います」とアドバイスを送り、トークイベントは盛況のうちに幕を閉じた。
映画『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
9月20日(金)よりロードショー!